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神戸地方裁判所 昭和51年(ワ)132号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

一原告は本件不動産が被告に贈与されたとすれば、右は原告の遺留分を侵害したことになると主張するので考えてみるに<証拠>によれば政一は、昭和五〇年一二月二三日死亡したこと、原告は、政一の死亡当時、政一の長女として誰一の相続人であつたことが認められ、本件記録によれば原告が被告に対し昭和五三年四月一日着の書面で遺留分に基づく減殺の意思表示をしたことが明らかである。そうだとすれば原告は政一の遺産について二分の一の遺留分を有しているものということができる。

二被告は原告の遺留分減殺請求権は時効によつて消滅していると主張し、その起算点を昭和五一年四月一九日の口頭弁論において贈与を主張した時点とする。民法第一〇四一条によれば「減殺請求権は遺留分権利者が相続の開始及び減殺すべき贈与があつたことを知つた時」をもつて消滅時効の起算点とすることを規定するが、右にいう「減殺すべき贈与があつたことを知つた時」の解釈については争のあるところである。「知る」ということの意味が、単に贈与があつた事実を知るという事実を知るだけでなく、それが遺留分を侵害することを知つたときであることを意味することはいうまでもないが、その場合知るということは必ずしも的確に知る必要はなく、未必的に知りたるときでも足りると解するのが相当である。本件においては記録によれば被告は、昭和五一年四月一九日、第一回口頭弁論期日において主位的に本件不動産について売買による所有権取得を、予備的に負担付贈与による所有権取得を、それぞれ、主張し、ついで、昭和五二年一〇月一一日、第九回口頭弁論期日において右売買による所有権取得と右負担付贈与による所有権取得を択一的に主張するに至つたことが明らかであるが、被告が主位的に本件不動産について売買を主張し、負担付贈与を予備的に主張している限りでは、いまだ減殺すべき贈与があつたことを知るに至つたとは言い難く、昭和五二年一〇月一一日、第九回口頭弁論期日における被告の主張によつて、初めて、原告は減殺すべき贈与のあつたことを未必的に知るに至つたものというべきであつて、原告がこれを否認すると否とによつて結論を左右するものでない。もし、原告が贈与の効力を否認する限り減殺すべき贈与のあつたことを知つたことにならないと解すれば、贈与の無効確認訴訟を提起して敗訴判決を得てから、なお、減殺請求をすることができるということになり、短期消滅時効を認めた趣旨が全く失われてしまうことになる。ところで本件においては原告が遺留分の減殺請求をしたのは昭和五三年四月一日であることは前記のとおりであるから、減殺請求権はいまだ時効によつて消滅するに至つていないといわなければならない。

三減殺請求権は形成権であるから、右権利の行使により贈与が遺留分の限度で失効し、受贈者は既に履行されたものについては遺留分権利者に対し物権的請求権としてその目的物を返還し、また、贈与後、処分されたものについては不当利得返還請求権としてその目的物の価額を弁償しなければならない。<証拠>および前記本位的請求において認定した事実によれば、政一には本件以外には目ぼしい資産はなく、別に本件不動産のうち建物の建築工事代金残債務があつて本件不動産につき訴外会社のために極度額二、〇〇〇万円とする根抵当権設定とその旨の登記がされてあつたこと(訴外会社が右抵当権に基づき本件不動産に対し競売申立をなし、昭和五一年五月一一日、競売開始決定がなされ、昭和五二年一一月二二日、金三、〇〇三万円で競落許可決定のなされたことおよび右競売代金より配当金、競売費用等を差引き金一、四三三万二、八一〇円の剰余金が存していることは当事者間に争がない)が認められ、<る。>

原告は被告が前記競売事件について国に対して有する前記競売代金剰余金返還請求権のうち二分の一に相当する金七一六万六、四〇五円は原告に帰属すると主張しているけれども、贈与後、目的物件が競売されたときは、処分されたときと同様に受贈者は目的物の価額を弁償すればよく、遺留分権利者に処分によつて発生した債権(競売代金剰余金返還請求権)の帰属を認める理由はない。よつて本件においては被告は原告に対し前記競売代金剰余金のうち、少くとも、二分の一に相当する金七一六万六、四〇五円およびこれに対する昭和五三年四月二日以降右完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払義務あるものということができる。なお、負担付贈与にあつては、本来、その目的の価額から負担の価額を控除したものについて減殺すべきところ、本件にあつては右負担とは建築工事代金の支払であつて右債務は競売手続によつて弁済されたのであるからさらに控除する理由はない。

(中村捷三)

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